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つらつらと小説でも書いていこうかと。
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扉を開けると、早速その扉自体が何かにぶつかり、人一人が通れる程の隙間しか空かなかった。
相変わらずやなあ、と独り言を呟き、ルーディッハは『姫さん』の部屋へ足を踏み入れる。
「……やっと来たか。遅い」
物語や他国の姫のように天蓋付きの広く豪華なベッドではなく、姫一人が寝るのにちょうど十分なだけの、シンプル極まりない簡素なベッドの上、ルーディッハから背を背けて寝そべっている人影から、鈴のような、しかしドスのきいた声がかかった。
それでもルーディッハは恐れない。彼にとってそれ位の事は当たり前で、愛らしくすらある。
自由に育てた(少なくとも彼はそう思っている)結果、こうなったまでの事。それが姫の個性で、たまらなく愛しい。
「ごめんなあ、姫さん。
 まあしかし、俺のおらん間にごっつ汚したなー」
床には扉からベッド間ではいける隙間がある。だが、それだけ。他は散々だ。
書類はファイルに入れて無造作に放り出してあり、コートもハンガーに掛けてタンスに入れるどころか、タンスの下の面に乱雑に積んである。
その他諸侯からの贈り物などは積み重なったまま開けられてもおらず、その上に姫お気に入りのズボンがどさりと重ねられていた。
本も本棚に収まっておらず、床に積み重ねられている。
とにかく、それ以外にも徹底的に物が散乱している。
まさに、足の踏み場もないというのはこういう事だ、というように。
池の飛び石のように、ベッドから机へはところどころ床の緑の絨毯が見えている。そこを軽やかに踊るように渡って姫は机へ行くのである。
それでも部屋が汚れているのは事実。
「なら整理しろ、ルーディ」
エリーナレベッカ姫がいつものようにそう告げた。
口調はもちろん、いつもより怒りを含んでいたけれど。
「はいよ」
いつもこの部屋を片づけるのはルーディッハだ。
ルーディッハは、一瞬琥珀色の目を細め、ベッドに背を向けて慣れた手つきで片っ端から物を片づけ始める。
「なー姫さん」
「なんだ」
片づけながらかけた声に、怒りを含んだ声が返る。
相当拗ねているようだ、と今までの経験から見当をつける。
『えろほん』とはなんだ、と聞いてきたのを、恥ずかしさからごまかしたとき以来だろうか。
「拗ねんといてや、そないに」
「誰のせいだと思ってる!」
「俺のせいやね」
「そうだ! 一ヶ月も何をしていたこの愚か者!
 お前がいないせいでどうなったと思ってる!」
「寂しくて寂しくて夜も眠れんかったとか?」
「そうだ! 私の睡眠時間を返せ!」
その言葉と同時に柔らかい枕が殺人的な勢いで投げつけられ、一瞬息が止まった。
「……姫さん?」
ベッドの方を振り向くと、赤い顔をして怒り心頭といった様子の王女が、起きあがってルーディッハを睨み付けている。
「赤ん坊の頃から十四年、ルーディ、お前と共にいたんだ。
 お前が私の傍にいるために一ヶ月も旅に出ていたのだということぐらい分かっている。当たり前だからな!」
ふん! と高い声。傲慢だが、ルーディッハにとっては小鳥のさえずりより美しい言葉。
「お前なんかな、大好きだ。大好きだから帰ってくると分かっていても寂しくって胸がイヤな感じになるんだ!
 しかも部屋はぐちゃぐちゃになるし、どうしてくれるんだお前は!」
まるで敵に決闘でも申し込むような勢いで彼女は文句を叫び、そのまま布団に再び伏せる。くすんだ金髪が宙に舞った。
ああ、なんて可愛いんや。
ルーディの胸一杯に愛情が満ちる。部屋のことは自己責任だが、そう言う気は毛頭ない。
「……ごめんな、姫さん」
「……ふん。
 謝罪はいい。三週間裏山に籠もって修行した回し蹴りの痛み、三日かけてとくと味わうがいい。
 それよりも言うことがあるだろう」
「ほえ?」
修行云々は軽くスルーして、惚けた声を出したルーディッハに、王女の喝が飛ぶ。
「人付き合いの基本は!?」
「挨拶です!」
身体の全ての細胞が引き締まるその声に、思わず背筋をぴんと伸ばして答える。
そして、気が付いた。
「……姫さん」
ふ、と胸のどこかと顔が緩む。
王女は再び起きあがり、憮然とした顔でルーディッハを見つめていた。
「ただいま、……我が主、エリーナレベッカ」
「……お帰り」
再会の喜びに満ちた、意志の強い輝きを放つ瞳を細め、王女が静かに満足そうな微笑をその美しい顔にたたえる。
ルーディッハには、それは女神にも勝って綺麗なものに見えた。
ふい、とそのまま王女はほほを赤く染めて、背を背けてしまう。
ゆっくり近づいて、後ろから抱きしめると、それに対する抵抗はない。

えへへ、と笑うと、何がおかしい、と怒鳴られた。

姫といる時間は至福だ。何を犠牲にしても良い、とルーディッハは思う。
ルーディッハの幸せは姫だ。姫のためなら何でもする。
そう。
本当に、何でも。
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