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つらつらと小説でも書いていこうかと。
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ルーディッハが期間を果たした翌日、伝達魔法を受けた早馬による知らせがファイルードの王城、および貴族達の邸宅に駆け込み、結果的に、エリーナレベッカ姫の縁談が壊れることになる事を告げる知らせをもたらした。
縁談相手であるジェイラードの王子が出奔。その後行方しれずであり、現在も捜索が続いているが、同時に小規模な反乱が各地で頻発。
ジェイラードの情勢は一気に不安定となった、というのである。
大陸に乱立する7つの国全てに、大なり小なりパイプを持つシェラン家の次期当主たるルーウェンも、その知らせを受けとった。
そして、ルーディッハを自室へ呼び出した。

ばたん、と扉を閉じて、ルーウェンは着席するまでを堪えきれずに言葉を発した。
「君は……なんてことを」
「何がや? ルーウェン」
静かにルーディッハは笑う。
けれどそれは、やりたい事をやり遂げて満足した笑みだ。
「ジェイラードの国内を滅茶苦茶にしただろう」
ルーウェンは深呼吸し、叫び出しそうになるのを抑え、ルーディッハに椅子をすすめ、自分も着席する。
「……ぁ、やっぱ気ぃ付いた?」
椅子に座り、ルーディッハは悪戯に気付かれた子供のような表情を浮かべる。
けれど、全く、悪びれる所がない。
「気が付くさ。他の貴族は君の『力』を知らない。実力を、魅力を知らない。
 けれど俺は知っているんだ……!」
「うん。そやろなあ。
 でもなあ、俺も、こないにまでうまくいくとは思わんかったで、流石に。
 俺スゴい」
「……どうやったんだい?」
「なんて事ないで。反乱起こした奴らに知識吹き込んで、王子の方はアンジェリーナさんとこ送った。そんだけや」
「アンジェリーナ……王の姉? アンジェリーナ公かい?」
「うん。美少年好きで、色々囲っとんの」
「なっ……!」
「で、ジェイラードの王子さんも年上好きで、色々遊びたいんやてや。
 利害が一致してな」
「それがどういう事か分かっているのかい!?」
「姫さんは見合いなんてせんでええ。せやからそうした。
 ……別にええやん?」
くっ、とルーディッハが笑顔を浮かべる。
虫を嬲り殺してわらう、残酷な子供の笑顔。
「身の程知らずの国が一国、ボロボロになるだけや。どうってことないやろ?」
「そんな事はいけない。もし殿下が知ったらどうするんだ」
「嫌われるやろな」
琥珀の瞳が細められる。ルーウェンはその笑顔に、その瞳に、何も言えない。
「そん時は死ぬわ。死なんくても、多分なんも出来んようになるやろな」
ふっ、と、花が咲くように、笑顔の質が変わる。
まっすぐな笑みだった。慈しみと好意と、ありとあらゆる美しい感情を詰め込んだ、純粋な笑顔。
その笑みを浮かべている本人が、他国を内紛の渦へと巻き込んだ発端の人物であると知っていても、何も言えなくなるぐらいに。
もうええやろ、姫さんに旅の間の話教える約束しとんねん。
そう言って、何も言えないルーウェンを置いて、ルーディッハはさっさと出て行った。
残されたルーウェンはただ一人、座っているしかない。
あの友人は昔からこうなのだ。誰も逆らうことが出来ない。奇妙な迫力で目の前にいるもの全てを支配する。
唯一。

『姫さん』だけが、ルーディッハを支配する。
『姫さん』だけが、ルーディッハを魅了する。

『姫さん』だけが。

「………」
だが。
くっ、くっ、くっ、と、小さく笑い声が漏れる。
藍色の瞳を細め、綺麗な形の唇をゆがめ、ルーウェンは笑っていた。
「面白い」
ルーウェンは、実はルーディッハにある程度なら反駁できる。
出会ったとき、お互い友情を感じた。ああ、こいつは親友だ、と。それこそ一目惚れに近いぐらいに。
それ位の親友たるルーウェンの特権の一つが、『逆らう事が出来る事』なのだ。
けれどルーウェンは反駁しなかった。それだけの度胸があっても。
理由は一つだけだ。
ルーディッハの姫への想いを確認したかったからだ。
本当は責めるつもりなどない。ルーディッハがしなければルーウェンが自らの家の力でやっていた事だ。
ルーディッハは、姫の世話係であり、その身を守る騎士だ。
けれどその心には、まだ本人も無自覚な気持ちが眠っている。
それはまだでない。
けれど、想いは深まる。
「……面白い」
エリーナレベッカと、ルーディッハ。
ルーウェンは二人が大好きだ。
理由は色々あるけれど、その理由の一つが、『面白さ』だ。
二人が知らない、けれどルーウェンが知っている秘密を合わせると、とても面白いのだ。
使用人が夕餉の用意を告げにくるまで、ルーウェンの笑いはやむ事はなかった。
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